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レビュー:なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか? 松村嘉浩著

最近はやりの小説仕立て、対話形式で読める経済書といっていいだろう。その意味では読みやすいので、早ければ1日、2日で読み終えられる分量である。

われわれの不安の元凶は何か、どこにあるのかが本書の主題だ。

端的にいえば、これまでの資本主義経済システムが成長ありきで成立するのに対し、既に成熟した社会において、これ以上の成長を望むことに無理がある=システム疲労がその根底にあると説く。

成長できないものを、無理に成長しているかのように装えば装うほど、結果として先の見えなさ、希望のなさを強調することになる。

茫漠たる未来は、見通しを明るくすれば不安感から逃れられるはずだが、成長できないという事実を顕在化させることは、また別の不安を助長する。ゆえに、ごまかして、先送りする、見えないふりをすることで、なんとなくの不安感に甘んじることがまだましだという、本能的な逃避行動なのかもしれない。

成長シナリオが描けない以上、定常経済縮小均衡といった形の新たな社会像をベースにしなければならないが、これまでの成長神話にどっぷりつかってきた世代にそれを受け入れることは難しい。

本書はおじいさん・おばあさん世代の無理解を悪者として描いているが、世代分布からしても、ウェートの大きな旧世代が政治経済に発言権を持ち続ける事実は変わらないだろう。

やればできる類のものであれば、精神論で解決できるのかもしれないが、これ以上成長できないという厳然たる事実は、これまでの社会が味わったことのない課題であって、われわれはまだ十分にそれを理解できていない。だからこそ、なんとなく不安に感じるしかないのだ。

本書の議論はわかりやすさを優先にするために、相当一方的に白黒つけるような形をとっているので、一歩引いて冷静に咀嚼する必要があるものの、均衡経済、縮小経済というこの先のトレンドはもはや避けられないことは事実だろう。

こうした分野の類書は、最近ではよく見かけるようになってきているので、他書とも参照の上、成長神話に適切な懐疑を向ける必要をますます実感するところである。

結局のところ、もはや右肩上がりで単純に成長などできないという圧倒的事実が、成長神話を当然と受け止めてきた(そしてこれからもそのままでいこうとしてる)われわれにとって、まさしく不安感の元凶なのである。

資本主義経済と非成長は相容れない。ゆえに、現状の政治経済システムありきで考えている限り、この矛盾からは抜け出せない。近現代の資本主義システムにおいて、成長自体が宿痾といっていいだろう。