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その戦略に機動力はあるか

戦略の本分が現実を変えることにあるとするならば、一旦決めた戦略だから変えられない(戦略を定めた以上後はただそれを実行するだけ)という論理は矛盾をはらむことになります。

イギリスの国際政治学者のローレンス・フリードマンですが、彼が2013年に出した700頁以上の大著『Strategy: A History』を読みますと、ギリシャ・ローマ以来の過去の戦いをいくら分析しても、戦略を構築する役にはあまり立たないのではないかと言っています。 なぜなら、世界はダイナミックに変わり続けているからです。ダイナミックな世界での戦略には、現在の対立や矛盾を解決する未来に向けた物語りというか筋立 てや筋書きが必要で、それにふさわしい配役も必要です。つまり、戦略の本質は物語りを創り語ることだと言うのです。 経営者は勇気を持って未来を語れ 第2回 国も組織も、現場がなければ成り立たない 日経ビジネスオンライン

情況にフィットした戦略であるためには、情況の変化に鋭敏でなければなりません。ゆえに、変化する環境に対して固定化した戦略というのはお荷物以外のなにものでもないということになります。

もちろん、相応の時間をかけて練り込んだ戦略計画を軽々に覆していては先に進むことができないのも事実でしょう。おそらく、こうした発想を生み出す原因の一つに完璧な戦略という誤解があるように思われます。つまり、プランを作り込み過ぎてしまうことが、かえって自身の手足を縛ることになってしまうのです。

変化をデフォルト(前提)とするならば、むしろいい意味での不完全さ、曖昧さ、ないしはあそびといったものが必要になります。意図的に決め込まない部分(余地)をプランに織り込んでおくことで、変化のダイナミズムを吸収することが可能になります。

戦略もある意味で生きものと見なすことができるかもしれません。そうだとすれば、過度に縛りをかけ管理するというよりは、自律して前に進んでいけるようにうまく促すことが、より効果的なオペレーションと捉えられます。剛なる戦略と柔なる戦略、いずれが優れているのかを一概には判断できませんが、何を変えないで何を変えるのか、むしろその差配が問われていると考えるべきでしょう。