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行動規範として信頼が持つ意味

経済性や効率性など、われわれの活動を推し量る基準はいくつもありますが、無条件に、盲目的に、一つの基準を肥大化させることはリスキーであることを認識しておく必要があるでしょう。

信頼こそが契約や計画や日々の商取引を可能にし、投票から法律制定に至る民主的なプロセスを促進し、社会の安定に必要なものだからだ。われわれの生活にとっては不可欠である。世界を動かしているのはお金よりも信頼なのだ。 経済や社会が機能するためには、参加者がシステムの適度の公平さを信頼しなければならない。個人の間の信頼は普通は互恵的なものだ。しかし相手は私をごまかしていると私が思えば、私も仕返しをして相手をごまかそうとしがちだ。 ジョセフ・スティグリッツ---「信なくば立たず ~世界を動かしているのはお金ではなく信頼だ~」 現代ビジネス

どんなにじゃぶじゃぶと水を汲みいれたとしても、底が抜けている容器に貯めることはできません。信頼を棄損するということは社会を底抜けの状態に追い込むことを意味します。社会にしろ組織にしろ、そのネットワークを担保する一線を決するのが信頼の有無に他なりません。

近年、ネットワークというとどうしてもその自由度ばかりが強調されがちですが、個々人が自由に振舞ってさえいれば、自ずとネットワークが形成されると考えるのであれば、いささか浅慮と言わざるを得ません。

もちろん自由な経済活動が生むダイナミズムには相応の役割が認められますが、そのこととネットワークを支えるための責務は切り離して考えることはできません。この場合の自由とは、責務としての信頼の醸成の対価といってもいいものです。ゆえに自由と信頼とはコインの表裏として、同時的に充足することから逃れられないものと捉えるべきです。