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人間行動はどこまで科学で解き明かせるものなのか

人と人とのかかわり、ネットワークの重要性は今更繰り返すまでもありませんが、こうした、従来であればヒューマンファクターとして定性的にのみ捉えられていた領域に対しても、ビッグデータや情報技術の高まりによって定量化の道筋が見えてきたようです。

人との共感や行動の積極性は、人の「幸せ」を決めるものである。共感できたり、積極的だったりすると、その先に幸せが得られやすい、というのではない。共感できたり積極的に行動できたりすること自体が、人のハピネスの正体なのだ。したがって、ビッグデータを使って儲けを実現すると、見えないところで人との「共感」や「積極性」や「ハピネス」が得られたことになる。 データの見えざる手 ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則 矢野和男著

マネジメントはどうしても人間そのものを扱うがゆえに、あいまい性を多分に含んだものと考えるのが一般的でした。それゆえ、自然科学と社会科学とは決然と異なる資質のものとの見立てがありました。

それに対して上著では、人間も個々人の意思に基づく唯我独尊の存在である前に、生物としてのルールに従った、環境に規定される存在であることを指摘しています。 行動原理を個々人の内の問題としてしまえば、外からそれを推し量ることは困難ですが、人間が外部とのコミュニケーションにより規定される存在であるならば、そのコミュニケーションの兆候を測ることで人間の幸せですら定量化されるということになります。

もちろん、さまざまな兆候の累積的結果として、判断や意思決定がなされ、組織としてのパフォーマンスへと昇華されるわけですから、そう単純なものではないのは理解できますし、個々人のオリジナリティ、アイデンティティの領分が無用ということではありません。

しかし、われわれの個性として定性的に扱ってきた領域に対して、まったく異なる視座から定量的な指標を掛け合わせていくことで、われわれ自身への理解が多面的、立体的になることは大きな気づきの機会を与えてくれるはずです。

人間の問題となると、どうしても優秀なリーダーと突出した能力といった個別具体的像を想起しがちですが、人間には人間という生物種に固有の行動パターンの上に立っているという事実も、もう一つの重要な側面です。 人間行動にはそうした潜在的制約がある以上、それを有効活用すべく振り向けることが、自己理解であり、自己実現ということなのかもしれません。

もはや人間の意思=ブラックボックスとして無条件に前提とする時代ではないようです。