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エコシステムとしての理解

産業水準の高度化や消費社会の成熟とともに、企業体単独での論理にも限界が見えています。また、情報環境の充実によってビジネススピードが加速していることも、ネットワークを生かした柔軟な取り組みを要請しています。

このように、自社中心の考え方から一歩引いて、ビジネスのあり様を出発点に関係者が協調してその実現に向け足並みをそろえていく仕組みがエコシステムです。別の表現では、アライアンス、バリューチェーン運命共同体といった表現もできるでしょう。相互関係やネットワークへの着眼は近年の流行のひとつであり、ソーシャルやオープンイノベーションなどもこうした文脈でとらえることができます。

エコとは、一義的には生態系を模していますが、これを弱肉強食と理解したのでは、協調の筋が見えてきません。むしろ、全体(系)としての進化成長を追求するということが、協働の意義といえるでしょう。一方のシステムについては、そのダイナミズムに着目するというよりも、全体を一つのまとまりとしてグロスで考えるという、素朴なシステム理解にまずは留めておきます。

エコシステムは、利益と生存という共通の目的で結びついた企業の集合体です。志向性を一にするという点で、別掲『チームとコラボレーションの関係性』のアプローチのひとつの形態です。 エコシステムをさらに拡張していくと、顧客(一般消費者)をも巻き込んだものと理解できます。その意味では別掲『インタラクションとソーシャル性』の領域も視野に入ってきます。この意味で、エコシステムはチームとソーシャルの中庸な形態とみなすことができます。

協働の難しさは、インタラクションの水準(志向性がバラけた多様なもの)を、コラボレーションの水準(志向性のすり合わせ)へスイッチすることです。もと もとコントロールしがたいものを、コントロールできる形にまとめ上げる難しさとも言い換えられます。これはいかなる規模の集団でも生じることですし、コモ ンズの悲劇に代表されるように、特段新しい課題ではありません。ネットワーク社会にあっては、波及効果こそ無視しえないという意味でも、これまで以上にス ケーラビリティを意識した視座を要求されます。

たとえば、古い言葉での業界はエコシステムといっていいでしょうか。確かに意思統一という意味での一貫性はあるでしょう。また、護送船団によって自社の生 存を確保していくということで、目的を一致させています。エコシステムの条件はそなえていますが、自己防衛から不利益を外部に押しやっているという意味で は、排他的なシステム構成になります。エコシステムとエゴシステムは似て非なるものです。

エコシステムとは、メリットをシェアする仕組みとして、すべての参与者に相互貢献が求められます。ゼロサムの発想から脱却できなければ、エコシステムによる創発は機能しません。日本語には融通という言葉がありますが、手放すことではじめて得られるものもあるこ とがエコシステムの本質を表現していると言えるでしょう。 自社論理をいったん脇に置き、システムとして自らもその一部として見直した時、今すべきことへの気づきが得られるはずです。ネットワーク時代の企業の強さ とは、単独での確固たる基盤にあるのではなく、連携から生み出される対応能力のしなやかさにあるのかもしれません。