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レビュー:小売再生 リアル店舗はメディアになる ダグ・スティーブンス著

小売りは物を売るのではなく、体験を売るべきだ。今やよく聞かれる論調であり、本書の主旨もその点で共通している。

小売というモデルが、古き良き20世紀的な、生活の欠乏をモノで満たすことが第一義であった時代の名残だとすれば、もはや環境が小売というスタイルを必要としていないのかもしれない。

ネットであらゆるものが変える時代であるし、また、モノ自体を欲しがらなくなってきたということを考えれば、いつまでもコストのかかる小売、店舗販売ということに固執する意味はない。

もちろん、小売のすべてが無用というわけではない。顧客とのタッチポイント、最前線という意味でのリアルなショップの意味は不変だ。しかし、いかに売らんかなといった、売り上げ至上主義的な発想はもはや時代遅れといっていいだろう。

極論すれば、売るという発想自体を捨てる。そのうえで存在意義はあるのかと問うたとき、求められる在りようが見えてくるのだろう。それは当然に、売るというモノ発想を脱却している以上、いわゆる小売ではない。

体験を主軸に置くとすれば、顧客が体験を買うという発想もあるし、また、企業が体験を通じたPRの場を買うという位置づけもできる。そこでは旧来のモノの一方通行の流れとは異なる、次元の異なる複雑な、相互方向的な流れが形作られるだろう。

それは情報の流れであり、コミュニティの結びつきであり、率直なフィードバックであり、気づきや驚きのような発見だったりする。接点という場をいかに構築するか、発展させるかが問われているわけで、売上を立てるというのとは趣の異なるものだ。

消費のスタイルで言えば、漫然と生活用品を補充する消極的消費と、消費そのものを愉しみに変える積極的消費が今後はより顕著に分かれてくるのだろう。その時、小売としての生き筋は、後者にしかないといってもいいかもしれない。

結局は、小売という名前が象徴するように、どうしても、いかにモノを売るかという発想は岩盤のように強固で、そこから抜け出すことは、言うほど容易くはないだろう。しかし消費の前提が揺さぶられている現在、対処療法的に小売を効率化させるような漸次進化では対処しきれないのも事実である。

最悪、小売がなくなっても生き残るにはどうするかで発想するしかないし、そこまで腹をくくれるかが問われている。