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レビュー:デザインが日本を変える 日本人の美意識を取り戻す 前田育男著

マツダのデザイナーによる、デザイン畑、メーカー畑からのデザイン論である。マツダの「魂動デザイン」を通じて、いかにデザインを全社的に敷衍し、息づかせるかという意味で、組織論でもあり、人材活用論でもある。

 デザインをどうとらえるかという意味では、旧来のスタイリング中心のデザイン畑のど真ん中の立ち位置から、それを企業組織全般にまで拡張していくという視座に立ったものである。それが強みでもあるし、また限界にもなるかもしれない。

モノからコトへと主眼が移っていく時流の中で、とかく古いものづくりは否定されがちであるが、そこはメーカーとして、モノに徹底的にこだわる中で、それを突き抜けたものとすることで、コトにまで波及、昇華させるアプローチといっていいかもしれない。

わくわくやドキドキ、感動にアプローチするクルマを追い求めるという姿勢は、日常生活品としての単なる移動手段の車ではなく、趣味嗜好、理想的なライフスタイルの顕現としての車という側面に力点が置かれるのだろう。

そう考えると、ターゲットは自ずと絞られるし、意図的にそうしたQOLを求める層に訴求していくのが、自動車メーカーとしての生き残りのひとつの指向性といえる。

自動運転が視野に入ってきて、クルマとは何ぞや、と基本中の基本が問い直されている現代にあって、いわば原点回帰により、職人魂に火をつけることを通じ、組織一丸となってオンリーワンのものづくりを志向する。日本企業の底力を再評価すると同時に、次なるものづくり、ないしはものことづくりを考える、一つの導入部ともいえる事例かもしれない。

とかく日本はやっぱりすごいんだ的なテレビ番組が流行っている現状にあっては、下手をするとそこで自画自賛、思考停止が避けられない。もちろん何でもかんでも卑下する必要はないが、日本的優位性は毒にも薬にもなると思って、冷静に判断することが欠かせない。