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レビュー:まなざしのデザイン <世界の見方>を変える方法 ハナムラチカヒロ著

われわれはとかくデザインを対象物の属性として理解している。一方で、人間の認知という仕組みを厳密に考慮すれば、たとえ同じ現象や対象物でも、良いという人もいれば悪いという人もいる。このように人によって受ける印象や捉え方が変わるのがむしろ人間の多様性を前提にすればふつうのことである。

つまり、デザインの操作としては対象物としてつくりこむという発想がある一方で、そうしたものを私たちがどうとらえるかの側面、レンズの側に変容を迫ることでもデザインは変わるということだ。

むしろ、あらゆることが認知というフィルターを通して行わることを考えるならば、むしろ前者よりも後者が決定的なのかもしれない。

そう考えると、これまで私たちがあたり前としてきたデザインというものの見方は大きく間違っていたのかもしれない。人間に対する理解不足といってもいい。デザインで差をつけるといったアプローチは受け手である人間はある程度平板な一定の理解力があり、提示したものを期待した筋で受け止めてくれるはずとの思い込みが下敷きとしてある。しかし、人間とは本来多様なものであり、また近年のダイバーシティの隆盛からしても、多様であることを所与として受け止めるべきとの風潮があるのに鑑みれば、デザインが多様で人間が一様という見立てには大きな錯誤が含まれていよう。

もちろん、デザインとしてのつくり込み自体を無用な、意味のないものとして退けるわけではない。それにも一定のオリジナリティの発揮はあるだろう。ただ、それと同等か、むしろそれ以上に、多様な人間がどうそれを受け入れてくれるか、対象を受け入れてもらうにあたってどのような接近法、誘導法がより効果的なのかという配慮が、今後はますます大きな比重として検討されねばならない領域だ。

このように、デザインを対象としてだけでなく、受け止め方、認知の側面で解釈することにも応分の意味があることに注意を喚起する意味で、まなざしのデザインという観点は面白みがあると思う。