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レビュー:野性の知能 ルイーズ・バレット著 小松淳子訳

われわれは知性というものを脳内の蓄積量のようなものと認識しがちだ。しかし、コンピューターのようにすべてを情報として蓄積しようとするのはけっしてスマートな方法ではない。

動物の本性としての行動観察から、実はすべてを知っている必要はないことが明らかにされる。極端な話、脳など介在しなくても、環境からの入力に適切に反応できる仕組みさえあれば、むしろより効率的に自身の行動を促すことは可能なのだ。

これまであたり前としてきた、高度な脳内処理ありきではなく、環境と身体のインタラクションによって、思考とされるものを適切に外部化できるならば、より省力化、合理化された知的行動が実現できるとの見方は慧眼だ。

言い換えるならば、思考の中枢たる機能は、脳内に厳然と存在するのではなく、人間と外部との接点、境界、つながりに宿る。身体を外に敷衍できる能力こそが知性の源泉に他ならないという理解だ。

昆虫やラットが、人間と同じように知性を持っていると考えるのではなく、そんな大仰に構えなくても、脳など関係なしに知性(とこれまで考えられてきたもの)は環境との接触によって適宜生み出される。むしろ高度なコンピュータ的働きを備えた脳=知性という思い込みにNoをつきつけたこの原初的認知機構への回帰は、知の本質を捉えなおすにあたって有意な観点を与えてくれる。