something eureka

思索のヒント、ブックレビューなどを中心に

レビュー:人体 600万年史 科学が明かす進化・健康・疾病 ダニエル・E・リーバーマン著

人類の歴史という視点からすると、われわれの日常の認識はいささか短絡といってもやぶさかではないだろう。

最適といったとき、私たちはどうしても自分の視点で、自分中心に環境と最もフィットした理想的状態を思い描きがちである。もちろん、現時点で取り急ぎ状況に対処しなければならないということであれば、それはそれで一つの考え方である一方、それがすべてではないことには気づきづらい。

人類という種をベースに考えたとき、最適とは、種を最も効率的に再生産することを意味するのであって、個々の生命体の立場はまったく考慮の内に入らない。個々がいかに生き延びようとするかといった生命の質は関係ないのである。

個々がどう生きようとも、たとえそれが短命であろうとも、結果的に次の世代が担保されるのであれば、それが正解というのが、種の立場から見た最適ということだ。

進化における最適とは非常に長い時間軸を基準に考えられるものであるのに対し、われわれ一般の認識は、自分の世代中心なのが現状だ。つまり、生命体としての最適とは時間軸と連動してそれと評価される結果指標であって、いわば個人の都合でどうこうできる範疇を超える。

私たちは一般に自分の世界を中心として最適を論じ、最適を追い求めているつもりになっているが、実はそれというのは非常に狭い領域でフィット感を追い求めているだけなのかもしれない。その意味では井の中の蛙ともいえるだろう。

もちろん、社会や環境との整合を図るうえで、最適化を無視していいわけではないのは当然だ。しかし、最適とは思いのほかコントロールできるものでもないし、私たちは最適をかなり限定的にそれとみなしてしまっている点によく留意すべきだろう。