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予測マシンの世紀 AIが駆動する新たな経済 を読んで

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人工知能(AI)は今、まさにホットなテーマだ。

しかし今だその道筋はわかっているようでわからない部分も多い。要するに過去からの類推で読めるものではなく、全くの新しい潮流だからだ。

まさにこの点が予測マシンという意味でのAIとも大きく関係している部分になる。

要するに、機械が得意なことはデータ処理であって、過去の膨大なデータを一括りにして、そこから敷衍できる未来を描き出すことに長けている。一方で、必ずしも予備知識が十分ではないアバウトな状況に対して、決定的なトラブルを避けつつ、まずまずの結果を生み出すという点では、人間の持つ柔軟性がまだまだ機械を凌駕する。

このように、人間と機械ではその得手不得手の分野が違うので、すべてが機械に置き換えられるというよりも、適材適所で双方が効果的に分担するというのが、最も有効なシナリオなのだろう。

この過程において、当然、人間が担うべき領域というのは変化していく。これまでは不確実な未来に対して予測を立てるという困難な作業に多くの時間と労力が取られていた。しかし、計算力を頼みとする予測という作業は今後AIによってどんどん代替されていく。

人間という資産の総量は変わらないとして、予測という作業から解放されるということは、意思決定という後続の作業へ力点をシフトできることを意味する。

本書では、予測がフルに使いこなせるようになると、その分、検討すべき意思決定領域も広がって、意思決定への要請はますます増大すると説く。この辺は個人的に逆のシナリオもある気がしている。

要するにメンテナンスフリーな自動予測が増えれば、その部分に関してはデフォルトの意思決定に従えばいいという、自動処理が進んで、意思決定が問われない可能性もあるのではないか。

もちろん、自動化で空いた能力が、これまで以上に広範な予測の追求に再投資され、意思決定すべきシナリオのバリエーションが増えるというのも、まああるのかもしれないが…。

つまり、比較的御しやすい軽微な不確実性に関しては、AIの予測能力によってどんどん解消されていく方向なのだろう。一方で、まさにイレギュラーな、想定しずらい不確実性に関しては、既往歴のようなデータが限られることもあって、必ずしもAIが得意とする領域ではない。

このように、AIとの協業という点で考えれば、これまで私たちが当然としてきた経済システムとは異なり、人間が注力すべき力点がスライドする可能性が高い。ただし、AIが得意なのはあくまでも予測であって、予測精度の向上が組織や経済全体に波及したときにわれわれはどうするか、という問題を突きつけられているといっていいだろう。

さらに予測には、予測しやすい領域と予測しずらい領域があって、何をどこまで追求し、何を自動的に処理するか、そして、それによって生じうるトレードオフをどこまで許容できるか、といった問題がある。

AIというととかく一足飛びに、人間のあらゆる機能が代替されるかのような錯覚を覚えるが、実態は予測という計算処理が中心になるというということだ。

良くも悪くもその訴求範囲や限界を踏まえておかないと、全く見当違いの当て推量に振り回されることになりかねない。

本書を読んだからといって、AIという問題にすっぱりと明快な回答が与えられるといったことはない。ただ、AI=予測マシンと同定すれば、少しは見通しがきくようになるかなといったところだろう。